155 D2とは
90年代、ツーリングカーレースで2大レースが隆盛を極めた。
ドイツではFIAツーリングカークラス1規定を採用し、一握りのメ
ーカーによってハイテク満載のスペシャルマシンが速さを競った。
ドイツツーリングカー選手権(DTM=Deutsche Tourenwagen
Meisterschaft)である。一方イギリスやイタリアなどではコンベ
ンショナルなマシンによって毎戦凄まじいバトルを展開していた。
イギリスツーリングカー選手権(BTCC=British Touring Car
Championship)やイタリアツーリングカー選手権(CIVT=
Campionato Italiano Velocita Turismo、通称イタリアスーパーツー
リズモ)などがそれである。どちらも激しいハコレースであるこ
とには間違いないが、コンペティティブさを比べれば明らかに後
者の方であろう。
2リッター以下のFIAクラス2に則った車両で争われたこのレー
スは、厳しく定められたレギュレーションによって低コスト化を
進めた関係で、多くのメーカーが参戦することになる。一部のメ
ーカーが異次元のレースを戦ったDTMとは違い、毎戦ぶつけ合い
も日常茶飯事の激しいレースで各車の性能も規定の関係で拮抗し
ているため誰が勝ってもおかしくないクラス2のレース。この魅
力あるレースが隆盛を極めたのは、ある意味当然だったのかもし
れない。
92年CIVTを155GTAで、続く93年DTMを155V6TIで、共に1
55投入初年度にして連続で選手権制覇を成し遂げたアルファロ
メオワークスであるアルファコルセが、次に照準を定めたのがB
TCC。そのBTCC制覇のために投入されたのが155D2である。し
かし155D2が初めてレースに登場したのは、実は93年のこと。
Gr.A規定の92年にアルファがCIVT制覇するも、93年は急遽他国
に歩調を合わせるかのごとくFIAクラス2規定を採用することにな
る。アルファコルセはCIVT2年連続制覇を目指して155D2を開発、
CIVTに3台を送り込む。これが155D2のデビューである。このD
2とは、
Division2=クラス2を意味し、155のクラス2専用に開発
されたマシンであることを示している。ちなみにレースでのエン
トリー名はアルファ155TSであり、155D2はあくまでアルファ
コルセ内部での呼称である。
電子制御の4WDシステムやABS、TCSなど何でもあり状態のハ
イテク満載のクラス1マシンのV6TIとは全く逆でD2は非常にシン
プル。駆動方式は生産車と同じくFF。ボディも骨格は生産車のも
のを流用している。しかし、室内はロールケージが張り巡らされ
て充分な剛性を確保している。
エンジンは生産車の伝統の2リッターツインスパーク4筒ユニ
ットではなく2リッターDOHC16バルブ4気筒ユニットで、164の
2リッター4気筒ターボ用鋳鉄ブロックに155Q4のアルミヘッド
を組み合わせたものと言われている。生産型の84×90mmのロン
グストローク型のボア・ストロークは86×86mmのスクエアに変
更され高回転・高出力化されている。クラス2の規定に基づき85
00rpmのリミッター装着がなされている。圧縮比は12.5、マネー
ジングシステムはウェーバーマレリ。もちろんドライサンプ化さ
れている。27度も後方へ傾けてエンジンを搭載することにより、
低重心化とフロントへビーの重量配分の改善を図っている。また
ヘッドは生産車とは逆の吸気側が前のいわゆるリバースヘッドが
与えられ、これによりラム圧過給によるハイパワー化を狙ってい
る。93年のデビュー時には275ps/8200rpmの最高出力と25mkg
/6000rpmのトルクを発生した。このユニットにヒューランドHP
2000という6段シーケンシャルミッションが組み合わされる。
“Silverstone”と名付けられた155
D2
ドイツの巨人、あのメルセデスを撃破して93DTMを制覇した勢
いのまま、アルファコルセはBTCCに殴り込みをかける。彼らの意
気込みは凄まじく、年間9億円とも言われる年間予算がそれを証明
している。BTCC参戦にあたっては、前年イタリアやフランスの選
手権に投入した155D2で戦うことになっていたが、彼らはとんで
もない秘策を考えていたのであった。
その最終兵器が155D2シルバーストーンである。これは155D2
をベースにしているが、最大の特徴はフロントとリアにスポイラー
が装備されていることである。そのため、空力パーツを合法的に使
えるよう、アルファロメオは標準でスポイラーを装着した“155T
S シルバーストーン”と名付けられた市販モデルをわざわざホモロ
ゲで規定された台数2500台を生産したのである。この辺りはアル
ファのBTCCタイトル奪取への意気込みを感じずにはいられない。
さらに、このスポイラーをレースカーには取付方法を変更、さらな
る空力性能向上を目指した。フロントスプリッターは10センチ以上
前方へ引き出され、リアのウィングにはブラケット(ゲタ)を介し
て高い位置にマウントした(しかしライバルから相次ぐクレームで
リアウィングがわずか3戦で姿を消して生産車と同じ通常位置で装
着しなければならなくなり、フロントスプリッターも中盤には生産
車と同じくバンパーのエアダムとツライチに装着が義務付けられて
しまった)
エンジンもさらに手が入れられ、最高出力285ps/8500rpm、
最大トルク25.8mkg/6000rpmまで引き上げられた。またシャシー
も空力パーツ採用に伴いフロントのサスペンションジオメトリーが
変更され、リアもCIVT参戦車よりも固められている。
94BTCCにはアルファコルセが走らせる2台のワークスカーをエン
トリー。ドライバーは元F1パイロットのガブリエーレ・タルクィー
ニとイタリアF3000からやってきたジャンピエロ・シモーニの2人。
この年、前年チャンプのシュニッツァーBMW318iを始め、強力な
コスワースチューンのV6が武器のフォード・モンデオGHIA 、デビ
ュー間もないが高いポテンシャルのルノー・ラグーナ、非常に戦闘
力の高い正体はオペル・ベクトラでもあるヴォクスホール・キャバ
リエ、ユニークなワゴンボディで名門TWRが走らせるボルボ850エ
ステート、フランスのプジョー405Mi16、日本の日産プリメーラ、
トヨタ・カリーナE(コロナ)、マツダ・クセドス6(ユーノス500
)など、10大メーカー激突という激戦の中、アルファコルセのエー
ス、タルクィーニは序盤開幕5連勝を果たす等、速さを見せつけて
狙い通りアルファコルセにBTCCタイトルをもたらしたのであった。
155D2が速かった理由はいくつかある。まず、重心の高さには最
適値があり、いたずらに重心を下げずにボディのねじれをも一つの
特性として考えられている。つまり高いバランスを重視したマシン
作りがなされているのである。その術は全てハコの名手アルファコ
ルセが昔から知り尽くしている。例えば、ボディ剛性の向上に極め
て重要な役割を果たすロールゲージにしても、F:マクファーソン
ストラット/R:トレーリングアーム式のサスペンションにしても、
特に驚くような部分は見当たらず、いずれも常識的なデザインがな
されている。その一方でアルファコルセのエンジニアは、シーズン
前のテストでベストセッティングを見つけだし、これをアドバンテ
ージにしてシーズンを戦っていくことを選んだ。そしてこのプラン
見事当たってデビューイヤーにしてBTCCを制覇したのである。
当時クラス2マシンは、全面投影面積が大きくなって空気抵抗が
増えても、ワイドトレッドや長めのホイールベースを持つモデルは
コーナーリングの安定性を確保する上で有利と言われたものだが、
155の全幅は1717mmで決して広くなく、2540mmのホイールベ
ースに至ってはクラス2マシンの中でも最短の部類に入る。それで
も155が優れたシャシー性能を発揮したのは、ベース車両のサスペ
ンション取付位置が、ロールセンターを比較的高めに設定できる点
に秘密がある模様である。
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